マイクロ法人設立に注意!個人事業主との同時進行のデメリットや危険性!

昨今、マイクロ法人設立で節税を推奨する動画や記事が多く見受けれらます。
もちろんマイクロ法人設立でメリットもたくさんありますが、あまりにもメリットの強調だけでデメリットや危険性について言及されていないように思います。
個人事業主を単に法人化だけであれば、所得があがっていれば、それほどデメリットはありませんが、個人事業主とマイクロ法人の同時進行にはデメリットや危険性が多く潜んでおり、場合によっては違法になる場合もあります。
当税理士事務所のお客様でもマイクロ法人と個人事業主との同時進行の方もいらっしゃいますが、メリットやデメリットも理解して運営されております。
もちろんマイクロ法人と個人事業主の同時進行にはメリットも多くございますので、当記事ではメリット、デメリットを解説し、ご自身でマイクロ法人を設立するか判断できるようになってもらいたいです。

マイクロ法人とは

マイクロ法人とは一般的に出資者と経営者が同じ、若しくは親族のみで、従業員を雇わず1人で会社を運営するスタイルの会社のことを指します。
一般的にといったのは、法律上、マイクロ法人という名称はなく、マイクロ法人は俗称です。
マイクロ法人も他の法人も法律上は同じ扱いとなります。

マイクロ法人のメリット

まずはマイクロ法人のメリットについて解説していきます。

税金関係のマイクロ法人設立のメリット

税金は個人事業では所得税が課せられ、法人では法人税が課せられます。
マイクロ法人では法人税が課せられることになるのですが、所得税と法人税は税率が違います。
所得税は所得が高ければ高いほど、高い税率が課せられる累進課税であり、法人税の税率は一律です。ただし、大企業以外の中小企業は800万以下の所得は軽減税率を適用出来るので実質は2段階です。

具体的には所得税、法人税の税率は下記のようになります。
所得税率の速算表

課税所得金額 税率 控除率
01,950,000 5 0
1,950,000円~3,300,000 10 97,500円
3,300,000円~6,950,000 20 427,500円
6,950,000円~9,000,000 23 636,000円
9,000,000円~18,000,000 33 1,536,000円
18,000,000円~40,000,000 40 2,796,000円 
40,000,000以上 45 4,796,000円 

法人税の税率は資本金1億円以下の中小企業の場合

所得8,000,000円以下 15
所得8,000,000円超 23.2

所得税、法人税以外にも個人の場合は住民税10%、個人事業税3-5% 法人の場合は法人県民税、法人市民税、法人事業税の実効税率が合計で8-12%前後かかります。

これらを比較すると税金のみであれば理論上所得が3,300,000円を超えた辺りから法人が有利になりますが、次の社会保険も加味すると判断が変わってきます。

社会保険関係のマイクロ法人設立のメリット

社会保険は個人については国民年金及び国民健康保険、法人は厚生年金及び健康保険となります。

個人事業主の場合の社会保険

●国民年金 年203,760円
●国民健康保険 0円~年1,040,000円前後まで(市町村により異なる)

マイクロ法人の場合の社会保険

●厚生年金 年193,248円~1,427,400円 大阪の場合で会社及び個人負担合算金額
●国民健康保険 年83,100円~1,991,592円 大阪の場合で会社及び個人負担合算金額
社会保険は個人の場合、所得が増えれば増えるほど、増加し、法人の場合、役員報酬や給与が増えれば増えるほど増加します。
よって、社会保険の金額まで加味すると3,300,000円ではなくもっと所得が上がってから法人にした方が良いということになります。
他の間接経費などを加味すると概ね所得が900万円を超えたら法人化した方が良いケースが多いです。

個人事業主とマイクロ法人の同時進行のメリット

税金面での個人事業主とマイクロ法人の同時進行のメリット

個人事業主とマイクロ法人の同時進行の税金面でのメリットはマイクロ法人からの役員報酬には給与所得控除があり、所得が少し抑えられることです。
例えば、個人事業で所得が事業所得のみの場合、仮に事業所得が500万であれば総所得金額は当然500万ですが、個人事業主とマイクロ法人の同時進行で事業所得が440万 給与所得が60万の場合は総所得金額は445万円になります。
これは役員報酬や給与などには給与所得控除という控除があるためです。

給与所得控除の額は下記を参照

給与等の収入金額 給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000
1,625,001円から 1,800,000円まで 収入金額×40-100,000
1,800,001円から 3,600,000円まで 収入金額×30+80,000
3,600,001円から 6,600,000円まで 収入金額×20+440,000
6,600,001円から 8,500,000円まで 収入金額×10+1,100,000
8,500,001円以上 1,950,000円(上限)

よって、個人事業主とマイクロ法人の同時進行の場合、給与所得控除の分、税金面で有利と言えます。

社会保険の面での個人事業主とマイクロ法人の同時進行のメリット

さて、個人と法人の税金面、社会保険の概要を前章で解説しましたが、個人事業主とマイクロ法人の同時進行の最大のメリットはこの社会保険の節約にあります。
仮に個人所得が国民健康保険の上限の方の場合、国民年金と合わせ、年1,200,000円前後の社会保険料がかかりますが、マイクロ法人で役員報酬を最低限にすれば、厚生年金と健康保険合計で年270,000円前後に抑えることが出来ます。
マイクロ法人のメリットで一番大きいのはこの社会保険料の削減であると言えます。

マイクロ法人のデメリット

マイクロ法人設立のデメリットを見ていきます。

間接経費がかかる

マイクロ法人を設立し、個人と法人で収益を分けた場合、間接経費が増加します。
個人と法人は別人格のため、会計も別になりますし、申告も別になります。
よって会計ソフト代も2重に発生します。
税理士費用も個人と法人の申告料がかかってきます。
個人の申告は、自身でなんとか出来たとしても法人の申告を自分で完成させるのは相当の知識と経験が必要であるため現実的ではありません。
その他、株式会社の場合は数年又は10年に一度の登記もありますし、本店や代表者住所の移転では登記が必要になり、登記費用が発生します。
このように、間接経費の増加は避けられません。

事務の時間が増加する

単純に個人と法人の両方の事務をする必要があります。
会計の入力も2つですし、社会保険、その他届出なども個人、法人両方しなければなりません。
事務の時間が増加し、その分営業や現場に使えた時間が減るため、目に見えないコストが発生していると言えます。
特に数万円程度の節約程度であれば、その時間を他のことに使えたので機会損失の方が大きいと言えます。

将来貰える年金が減る可能性がある。

個人事業と法人の同時進行で役員報酬を低く設定すると支払う社会保険料が減少しますが、代わりに将来貰える年金も減少します。
法人一本で通常の役員報酬を取るより、同時進行の方が来貰える年金が減少します。
今、手残りは増えるかも知れませんが、他の方法で備えていないと老後に困ることになります。

個人事業とマイクロ法人の同時進行の危険性

マイクロ法人を節税目的だけに作り、事業を全く行っていなかったり、又は実際は一つの事業の場合、税務署に同一と見なされ否認されるリスクがあります。
課税庁は実質所得者課税の原則に基づいて、法人名義を仮装していないか判断します。
個人事業主のマイクロ法人を設立する場合、事業を切り分け、〇〇部門は法人、××部門は個人など事業を分けてしまう方が無難です。
この辺りは理解せずに動画や記事の知識のみで法人を設立したり、友人の経営者からの情報のみで設立するのは危険です。
必ず、税理士等の専門家に詳しく事業の状況を説明しアドバイスを頂いてから設立するようにしましょう。

最大の危険!?個人事業主からマイクロ法人への業務委託費

特に個人事業とマイクロ法人の同時進行の場合の最大の懸念点は個人事業主からマイクロ法人へ業務委託費などを支払っている場合です。
個人事業主とマイクロ法人の代表者が同一であり、かつマイクロ法人に従業員がいないにも関わらず、外注費などの名目で個人の必要経費に算入した場合、その金額が否認される可能性は高いと考えられます。
平成30年4月19日判決の業務委託費の判例でもあるように、実質的に同じ人物に委託していると見なされ、所得税法は個人事業主自身の給与を認めていないため、経費とするのは難しい場合が多いです。
もちろん、個人事業主からマイクロ法人への業務委託費の全てが認められない訳ではありません。正当なものは当然経費となりますが、これも知り合いの社長の情報やネットなどの情報のみに頼らず、必ず顧問税理士に相談してから決めましょう。

個人事業主とマイクロ法人同時進行の場合のまとめ

個人事業主とマイクロ法人同時進行は特に社会保険の削減という点でメリットが大きいです。
ただし、遂行する業務を明確に分ける必要があり、特に個人事業とマイクロ法人の間での取引がある場合は思わぬ落とし穴があることを解説しました。
マイクロ法人の設立は昨今人気がありますが、ネットだけの情報を鵜呑みにせず、必ず税理士に詳細に説明してから、検討するようにしましょう。
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