起業する場合2つのパターンがあります。1つ目は会社員などを辞め、いきなり会社を設立するパターンです。もう一つは、個人事業主が○○商店などの個人事業を営んでおり、規模が大きくなったなどで個人事業を法人化するパターンです。この2つめのパターンの個人から法人化することを法人成りと言います。
今回は、この法人成りについて解説したいと思います。
法人成りにより節税できるなどのメリットも多いですが、反対に法人になることによるデメリットもあります。
法人成りすることによるメリット、デメリットと法人成りした方が良いケースなどを詳しく解説したいと思います。
法人成りのメリット
法人成りには様々なメリットがありますが、法人化することによるメリットについて解説したいと思います。
消費税が免税に戻る
消費税は原則として、2年間免税であり、2年前の課税売上高が1,000万円を超えた場合に消費税の納税義務者になります。これは個人事業主でも法人でも変わりません。
よって、個人事業で2年前の売上が1,000万円を超えている場合、課税事業者になり消費税の納税義務が発生します。しかし、個人事業で課税事業者であった場合でも、法人成りし法人を作れば、その法人は基本的に再度、2年間は免税事業者になります。
(一定の要件はあります。新設法人の消費税について詳しくは「新設法人の消費税の納税義務及び消費税の還付を受けられる場合」をご参照下さい。
なぜ免税になるのかというと、個人の事業を引継ぎ法人成りし、その個人が代表取締役になったとしても、法律上、個人と法人は別人格であるためです。
消費税が2年間免税消費税に戻ることは、課税事業者であった個人事業主にはとても大きなメリットでしょう。
給与所得控除で節税できる
個人事業主の場合、役員報酬や給与という概念はありません。
一方で法人化した場合、例え社長1人の会社であったとしても、会社から役員報酬を貰うという流れになります。
個人事業主の場合、「売上」-「必要経費」=「所得」に対して所得税が計算されます。
一方で会社の役員や従業員の「給与」に税率を掛けて所得税を計算した場合、従業員には必要経費がない分、個人事業主に比べ税金が高くなり、あまりにも不合理です。
そこで、役員報酬や給与には個人事業主でいうところの必要経費に該当する「給与所得控除」をいうものを差し引くことが出来ます。
例えば、年収300万円であれば、給与所得控除は108万円であるため、300万円に税金がかかるのではなく、300-108=192万円から扶養控除などの各種控除を差引いた金額に対して税金がかかります。
よって、所得税を抑え節税することが出来るため、大きなメリットとなります。
配偶者や親族を役員にして節税出来る
個人事業者の場合、配偶者や親族は扶養に入れるか専従者給与を支払うかいずれかしか選択できませんでした。
これが法人になった場合、仮に配偶者や親族が毎日出勤せず非常勤で働いていたとしても役員報酬として経費にすることが出来ます。(過大な報酬は経費にならないことがあります。)
さらに、例えば役員報酬103万円以下にすると、社長の扶養に入れ控除が受けられると共に、配偶者や親族に支払った報酬は法人側では経費になります。法人、個人のトータルでは比較的大きな節税になります。
退職金を経費をとすることができる
法人の場合、退職金を会社の経費とすることが出来ます。
退職金は一般的には、高額となることが多いため、法人側で大きな節税になります。
さらに、退職金は退職所得として通常の報酬や給与とは別の算式で計算され、所得税が大幅に安くなるため、個人側でも節税効果があります。これも非常に大きなメリットと言えます。
生命保険の保険料の多くが経費になる
個人の場合、生命保険は確定申告で生命保険料控除という控除を受けることになります。
この生命保険料控除は一定の金額以上は控除になりません。すなわち、個人で高額の保険に入っても節税のメリットは大きくはならないのです。
これに対し、法人で生命保険に加入した場合、保険の種類によりますが、全額、半額、1/3が経費になります。保険料が高額の保険に入った場合、節税効果が大きいと言えます。
欠損金の繰越し
個人も法人も青色申告で確定申告をしていることを前提ですが、個人事業主の場合、赤字の繰越しは3年間だけですが、法人は10年間赤字を繰り越すことが出来ます。
欠損金を長期に繰り越せるのは赤字が続き、黒字化した時にありがたいですね。
法人で事業活動に使用した費用は基本的に経費
個人事業の場合、携帯代や車両購入費などは事業に使用した部分しか経費になりませんでした。しかし、法人で行った行為は基本的に事業とみなされるため、全額経費となります。
当然、私用で使っていないことを前提ですが。
社会的信用がある
言わずもがな、個人商店よりも会社の方が信用があります。
○○商店よりも株式会社○○の方が、社会的な信用があります。新規で取引先を探すのも、新たに従業員を雇用するのも、一般的に会社形態の方が信用があるため、容易なのは明らかでしょう。
事業を売却しやすい
個人事業であれば、その事業についてよく知る人でないと売却は難しいです。これが、会社になると第3者に売却することが容易です。これは会社の場合、正確な貸借対照表、損益計算書といった財務諸表を毎期作成する義務があるため、会社の価値を割り出すことが出来るからです。
ご子息が事業を継承しないという選択肢を取った場合、売却という選択肢が増えます。
法人成りのデメリット
法人成りは当然メリットばかりではありません。法人化することによるデメリットについても解説しますので、プラス面だけでなく、マイナス面についても確認して下さい。
会計や税務が複雑でややこしい
個人事業の場合、何とか確定申告を自分で行うことが出来た方も多いと思いますが、法人成りすれば、税理士なしで決算を組むことは極めて難しいです。
会計も個人の時よりきっちり行うことが求められますし、開示の義務もあります。
事務負担が個人の時に比べ増大するのは間違いないでしょう。
税務調査に入られやすい
圧倒的に法人の方が税務調査の回数は上がります。これは特に不適切な処理をしていなくとも、任意調査で数年に1度は税務調査があります。不適切な処理をしていなくても、やはり調査で調べられるのは、時間も取られますし、何より大きなストレスになります。
交際費が個人より厳しい
個人事業の場合、交際費は全額、経費に算入できました。
法人の場合は800万円を超える交際費は経費にすることが出来ません。
また、現在は景気を刺激するため800万円以下の交際費は全額経費に出来ますが、数年前までは交際費の1割は経費に出来ませんでした。今後、もし引き締めが行われた場合、何割か経費に出来なくなる可能性もあります。
いずれにせよ、個人よりも交際費については厳しいです。
赤字でも税金がかかる
法人の場合、赤字でも均等割という税金がかかります。詳しくは「会社を設立すれば必要となる1年間の税金」をご参照下さい。
都道府県、市町村や会社規模により金額は異なりますが、例えば大阪市で事業をしている場合、最低でも大阪府に20,000円、大阪市に50,000円の計70,000円かかります。
赤字であったり、利益があまり出ていない会社にとっては痛い出費となります。
法人名義による費用増
自動車、電話、保険、手数料など、法人名義にすると費用が上がることが多いです。
例えば、NTTの固定電話などは個人の時より、法人名義で様々なサービスを契約した方が1.5倍くらい高くなる場合もありますし、振込手数料やATM手数料が高くなる銀行も多いです。
多くの場合、法人名義の方が高いので、地味に出費になります。
社会保険の加入
社会保険についてはデメリットばかりではありませんが、法人成りすると国民年金、国民健康保険から厚生年金、健康保険という社会保険強制加入になります。
個人の場合、業種や従業員数により、任意加入でしたが、法人の場合は、例え社長1人の会社であっても強制加入になります。
ただ、厚生年金の方が国民年金よりも手厚いのですし、所得により、健康保険の方が安くなる場合がありますので、完全にデメリットばかりではありません。
法人成りを検討するタイミング
法人成りのメリット、デメリットを踏まえ、一般的に法人成りした方が良いケースを解説致します。
規模を大きくしていきたい
会社の規模を大きくしたい場合、法人成りは必須でしょう。大手との取引、優秀な人材の確保に法人成りは必須と言えます。
なお、上場を目指すベンチャースピリッツをお持ちの方は、資金調達や成長スピードの面から考えてもすぐに法人成りした方が良いです。
売上が1,000万円を超えた
法人成りの一つの目安に売上が1,000万という基準があります。もちろん、消費税が2年間免税事業者になるというのが最大のメリットですが、税金面を考慮しても、大体このくらいの規模になると法人の方が有利になるケースが多いです。
一度、税理士に概算で試算を依頼されると良いでしょう。
利益が大きくなってきた
売上が少なくても利益が大きい場合、法人化した方が有利な場合があります。
ざっくりで所得が4~500万を超えると個人で所得税を払うより、法人税を支払った方がトータルで安くなります。
これは、所得税は超過累進課税という所得が上がれば、税率があがる課税方式に対して、法人税は一定の税率であるためです。(中小企業の場合、所得800万円以下と800万円超で税率が変わる2段階)
ゆえに、個人事業である程度の利益が見込めるようになった場合、法人成りを検討しましょう。
まとめ
今回は、個人事業から法人成りについて解説しました。
法人成りは様々なメリット、デメリットがあり、それだけではなく、法人になると社会的信用も増す分、社会的責任も増します。
今回記載したメリットやデメリットを考慮するとともに、自信の事業をどうしていきたいか、よく考えて法人成りされるのが良いでしょう。