賃上げ促進税制の制度で節税!要件や改正点の解説

現状、日本では賃金の面で世界に後れを取っており、賃上げが一つの課題となっています。
賃上げ促進税制は10年ほど前から所得拡大促進税制として始まりましたが、所得拡大促進税制の頃は制度が煩雑であり、使いにくい部分がありました。
しかしながら、何度も制度が緩和され、現在では制度も簡易になり、賃上げに対する税額控除が大きくなりました。
令和6年の改正ではさらに使い安くなったため、従業員を抱える会社経営者の皆様は今回の解説で制度のざっくりした内容だけでも頭に入れて欲しいと思います。
ここでは、令和6年4月1日から開始する事業年度に適用される改正後の最新の要件等を解説します。制度の概要を知りたい経営者の方も改正後の内容を知りたい経営者の方も参考になると思いますのでご参考にして下さい。
なお、制度の改正点だけ知りたい方は改正点!の項目のみ一読して下さい。

賃上げ促進税制とは

賃上げ促進税制とは、青色申告書を提出している中小企業等が、一定の要件を満たした場合で、前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税又は所得税から税額控除できる制度のことを言います。
従来は所得拡大促進税制という名称でしたが、改正で名称が賃上げ促進税制に変更されています。

賃上げ促進税制の制度の適用要件

要件は大企業、中堅企業、中小企業と分けられ要件が違います。
前提条件として下記のようになります。

賃上げ促進税制の適用の要件

大企業・・・継続雇用者の給与等支給額の3%アップ
中堅企業・・・継続雇用者の給与等支給額の3%アップ
中小企業・・・全雇用者の給与等支給額の1.5%アップ

●中堅企業・・・従業員数2,000人以下の企業又は個人事業主
●中小企業・・・資本金1億円以下の法人又は従業員数1,000人以下の個人事業主
●大企業・・・中堅、中小企業以外が大企業となります。

上記にように分けられますが、日本のほとんどの企業が資本金1億円以下又は従業員1,000人以下の個人事業主に該当すると思いますので、この記事では「中小企業に該当する場合の賃上げ促進税制」について解説していきます。
なお、いずれも青色申告書を提出していることが要件になります。

中小企業の賃上げ促進税制の制度の適用要件の詳細と税額控除率

中小企業に該当する資本金1億円以下の法人又は従業員数1,000人以下の個人事業主の賃上げ促進税制の適用要件や上乗せ要件を見ていきます。
まず大前提として
●青色申告書を提出していること
●給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加していること

これらを満たすことが賃上げ税制を受けれらる要件となります。
控除率は給与等支給額の15%です。

税額控除率の上乗せ要件

下記の場合は税額控除の上乗せがあります。
●給与支給額が前年度比2.5%で15%上乗せ
●教育訓練費が5%以上アップで控除率が15%上乗せ
●くるみん認定又はえるぼし認定2段階目以上で5%上乗せ

わかりにくいので表でまとめると以下にようになります

  給与1.5%UP 給与2.5UP 教育訓練費5UP くるみん等
税額控除率 15 15 10 5
累計控除率 15 30 40 45

 

このように全ての要件を満たすと、なんと給与等増加額の45%も税額控除となります。
ただし、控除率には、上限があります。上限は法人税額の20%です。
すなわち仮に100万円の控除であっても、法人税額が300万であれば300×20%=60万が実際の控除となります。
要は
●累計控除額
●法人税率の20%
いずれか低い金額が実際の控除額となります。

さて、ここまで賃上げ促進税制の制度の適用要件の詳細と税額控除率を解説しましたが、給与等支給額、教育訓練費、くるみん認定などよくわからない用語が出てきましたので次で定義や用語のを解説します。

給与等支給額とは

全ての国内雇用者に対する給与等の支給額の合計を言います。ただし、国や地方公共団体から支給される助成金その他これに類するものがある場合はこれを控除した額になります。
また、賃上げ促進税制の計算で使用する給与等支給額は特殊関係者(法人の役員又は個人事業主の親族など)の給与は除いた金額となります。
よって、社長や配偶者、子供の役員報酬や給与を上げても意味はありません。

教育訓練費とは

教育訓練費は国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させる又は向上させるために支出する費用を言います。

教育訓練費の具体例

教育訓練費は具体的には次のような費用となります
① 外部講師などに支払う報酬や交通費など
外部の講師を招き研修を受けさせたり、外部のセミナーに従業員を参加させたりする費用です。
なお、この外部講師等は子会社に委託しても、その費用は教育訓練費として認められます。

② 教育訓練を行うための設備費や地代家賃など
セミナーを行って頂くために借りた施設利用料やモニター代などの設備も教育訓練費に含まれます。
③ 資格・検定試験などの授業料や受験料など
業務に必要な資格に受験料の他、予備校の費用、大学院のコースへの参加、教科書などの費用も認められます。

教育訓練費に該当しないもの

下記のような費用は賃上げ促進税制の教育訓練費には該当しません。
① 法人等が役員や使用人に支払う人件費など
役員を講師とした場合に、その役員の人件費などは教育訓練費には含まれません。
② 教育訓練に関連する旅費交通費など
セミナー会場までの旅費や宿泊費などは含まれません
③ 教育訓練の直接費用でない大学等への寄付
④ 福利厚生目的で教育訓練以外の目的の費用

これらのように教育訓練などに直接関連のない費用については基本的に教育訓練には認められないと考えて良いでしょう。

教育訓練費の明細書の保存

教育訓練費での税額の上乗せ控除を受ける場合は明細書の保存が要件となります。
明細は下記の項目を記載してエクセルなどでまとめておけばOKです。
教育訓練等の
●教育訓練等実施した年月日
●教育訓練等内容
●教育訓練等を受けた者の氏名
●教育訓練等の金額
●教育訓練等領収書などの証明書

これらをまとめて保存しておく必要があります。

改正点!教育訓練費の額が給与等支給額の0.05%以上

適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の全雇用者に対する給与等支給額の0.05%以上である場合でないと受けられなくなりました。
これで敢えて極小の教育訓練費を支払うだけで制度の上乗せは難しくなったといえます。

改正点!くるみん認定、えるぼし認定2段階以上で税額控除率5%UP

令和6年度の税制改正でくるみん認定、えるぼし認定2段階以上で税額の控除が5%UP出来ることとなりました。

くるみん認定とは

企業の自発的な次世代育成支援に関する取組を促すため、行動計画に定めた目標を達成したなど一定の基準を満たした企業は、申請することにより、厚生労働大臣の認定を受けることをくるみん認定といいます。
具体的には男性の育児休業等取得率10%以上、男性の育児休業等・育児目的休暇取得率20%以上取得し、行動計画を策定・届出する必要があります。
詳しい認定の取り方は「厚生労働省の該当ページ」をご参照下さい。

えるぼし認定とは

女性活躍推進法に基づき、一般事業主行動計画の策定・届出等を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良である等の一定の要件を満たした事業主は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定を受けることをえるぼし認定と言います。
えるぼし認定には3段階あり、これの2段階以上で賃上げ促進税制の控除率が5%UPされます。

えるぼし認定の2段階

えるぼし認定の2段階目は
●「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の
5つの基準のうち3つ又は4つの基準を満たし、その実績を「女性の活躍推進企業デー
タベース」に毎年公表していること。
●満たさない基準については、事業主行動計画策定指針に定められた取組の中から
当該基準に関連するものを実施し、その取組の実施状況について「女性の活躍推進企
業データベース」に公表するとともに、2年以上連続してその実績が改善していること。 これらです。
詳しい認定の取り方は「厚生労働省の該当ページ」をご参照下さい。

どちらもややハードルはありますが、男性の育児休業や女性活躍に力を入れていく企業は是非トライしてみて下さい。

改正点!繰越控除の追加

今回の改正で賃上げ税制に繰越控除が追加されました。
繰り越せる期間は5年間です。
改正前は税金の控除額が上限に達していたり、赤字の場合は要件を満たしていても控除出来ませんでしたが、今回の税制改正により、控除出来なかった金額は翌期以降5年間繰り越せるようになりました。
よって赤字の時に給与等を上げても、5年以内に黒字になれば、その時に税額控除の恩恵を受けられることとなります。

賃上げ税制の税額の控除の具体例

さて、ここまで要件や控除率をまとめてきましたが、具体例がないとイメージがわかないと
思います。
ここでは具体例で実際の税額控除率を見ていきます。

賃上げ税制の具体例

R7.3.31決算の青色申告法人
●利益 1,580万円
●法人税 300万
●前期給与等支払額 3,000万円
●当期給与等支払額 3,300万円
●前期教育訓練費 10万円
●当期教育訓練費 12万円

この場合、給与等支払額は10%UP>2.5%UP 教育訓練費20%UP>5%UP
このため、控除率は40%
(3,300―3,000)×40%=120万円
控除の上限は300×20%=60万円
120>60 のため 税額控除は60万円となります。

ただし、使い切れていない60万円は5年間翌期以降に繰り越せます。

賃上げ促進税制の制度や改正点 まとめ

今回は改正後の中小企業の賃上げ促進税制の解説をしました。
もともとの賃上げ促進税制の概要を知っていた経営者の方も
●控除率が最大45%になる
●繰越控除が可能となる
●教育訓練費の額が0.05%以上という要件が付される
という改正は覚えておきましょう。
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