今回は、法人の生命保険による節税について実務経験を基にご紹介したいと思います。
保険商品の良し悪しはありますが、今回は「節税」という観点から生命保険を考えていきたいと思います。
なお、今回は法人の場合の生命保険を使用しての節税について記載します。
個人事業主の方は同じ生命保険の節税でも今回の内容と全く異なるため、個人事業主、サラリーマン、OLなど個人の生命保険の節税方法について記載した「個人の生命保険による節税」をご参考にして下さい。
生命保険の節税スキーム
さて、法人の生命保険での節税は非常にオーソドックスで、節税と言うと真っ先に生命保険が頭に浮かぶ経営者様も多いかと思います。
生命保険を使った節税とはどのようなスキームかと申しますと、逓増定期保険や終身保険など、解約返戻金がある保険に加入し、掛けた保険料の1/2や全額を経費として算入し、解約返戻金がピーク又はそれに近い高いときに解約することでトータルのキャッシュアウトを少なくするというものです。
わかりやすく具体例で確認してみましょう。
具体例
○ 月100,000円の保険料
○ 経費に算入できる額は保険料の1/2
○ 解約返戻金のピークは10年後でピークの金額は払込み保険料の90%
※保険の保障内容は税額には関係ないため省略します。
この場合、1年間で100,000×12ヶ月×1/2=600,000円が経費に算入できます。
法人税等(地方税含む)の税率がわかりやすく35%だったとします。
※現在は後数%低いです。
① 掛金の節税金額
1年間で600,000円×35%=210,000円の節税
10年間で210,000×10年=2,100,000円トータルで節税
② 払込保険料の総額と解約返戻金の金額の比較
一方で、払込保険料の総額は100,000円×12ヶ月×10年=12,000,000円
解約返戻金は12,000,000×90%=10,800,000円
トータル10,800,000-12,000,000=-1,200,000円
すなわち1,200,000円のキャッシュアウト
しかし、①で税金が2,100,000円安くなっているため、解約により返金される金額②のように払込保険料の総額より1,200,000円低かったとしても、トータルでは
2,100,000-1,200,000=900,000円キャッシュアウトを抑えられることができます。
別の言い方をすれば、10年間で900,000円得することになります。
生命保険での節税の注意点
このように生命保険会社や生命保険代理店は説明するでしょうし、生命保険会社や生命保険代理店の資料には返戻金が100%を超えなくとも税効果を考慮するとトータルで得するような記載が必ずといっていいほどされています。
間違いではないのですが、鵜呑みにするのは危険です。
税理士の観点から、すなわち節税の観点から見ると2点注意点があります。
その① 中小企業は所得(≒利益)が800万以下の部分は軽減税率が適用される
中小企業(普通法人のうち期末資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下であるもの又は資本金の額等が5億円以上である法人等による完全支配関係ない法人)は所得が800万円以下の部分の法人税は15%であり、地方税を考慮しても25%前後になります。
保険会社の資料は大抵33%~35%で記載されていますが、所得が800万円以下の場合は25%前後の実効税率で算定すべきですが、そうはなっていません。
その② 解約した場合、解約返戻金は収益となり税金がかかる。
解約した場合解約返戻金は資産計上した部分以外は収益になります。
例えば、上記の具体例ですと10,800,000-6,000,000(経費にしなかった金額)=4,800,000円が収益となり、4,800,000円に対しかけられるべき税率、約25%や約35%が課税されます。ここも保険会社の資料では大きく取り扱われていません。
こうなると、節税のために入った生命保険なのに逆にキャッシュアウトが増えてしまったという本末転倒なことになりかねません。
さて、この注意点を考慮しても節税のために加入すべき生命保険はどのようなものでしょうか?
結論
結論としては、上記2点の注意点がクリアーされた場合、すなわち、中小企業は所得(≒利益)が800万超かつ解約時に解約返戻金が収益となっても赤字の会社の場合、生命保険での節税は最大化されます。
特に注意すべきは10年後等、解約時に赤字になるかどうかわかりません。
しかし、ほぼ確実にわかる場合があります。
それは代表やそれに準ずる役員が退職し、退職金を受け取る時です。
毎年平均1,000万の利益を出している会社でも代表者に5,000万円退職金を支給すれば、ほぼ確実に赤字になることが予測できると思います。
従って、生命保険による節税は、「解約返戻金のピークの前後に代表者等役員が退職することが決まっており、相当程度の退職金を支給することが決まっているとき」が確実に効果を発揮します。
生命保険による節税は保険会社の言葉を鵜呑みにするだけでなく、節税となる条件がほぼ確実に決まってから加入するようにしましょう。