今回は、個人事業を始めた方の社会保険の加入義務と確定申告についてご説明します。
サラリーマンを辞め、個人事業主になった場合、自分で社会保険に加入し保険料を支払わなければなりません。資金繰りにも影響する為、公的な社会保険の年間必要金額だけでも把握しておいた方が良いでしょう。今回の記事は開業されたばかりの方は是非参考にして下さい。
なお、社会保険の中で国民健康保険は市町村により金額が異なります。今回は大阪市を例にして説明をしております。兵庫県、奈良県など、他の都道府県で個人事業をされていらっしゃる方は金額が少し異なると思いますが、社会保険の基礎知識は全国どこでも同じであるため、国民健康保険の具体例の金額が違うだけと考えて読み進めて頂ければ幸いです。
公的な社会保険の種類
加入が義務付けられている公的な社会保険には様々な種類があります。基本的には下記の5種類となりますので、1つずつ説明します。
国民年金と厚生年金
年金保険には国民年金と厚生年金があります。
年金保険は仕組みがやや複雑です。
○ 国民年金
国民年金は基礎年金と呼ばれ、年金の最低保障部分です。国民全員が加入の義務があります。
個人事業主はこの国民年金に加入することになります。
○ 厚生年金
厚生年金は国民年金を包括する保険です。厚生年金に加入していると自動的に国民年金にも加入しています。当然、国民年金よりも退職後の手厚い支給が受けられます。厚生年金は一般的にサラリーマン、OLといった会社に雇用されている方が加入する年金保険です。
個人事業主は加入することができません。
このように、事業を開始されれば、国民年金に加入することになります。
厚生年金は保険金額の1/2を会社負担ですが、国民年金は全額自己負担になるため、会社員から個人事業主になられた方は、保険料の負担が少しきつく思われるかも知れません。
国民健康保険と健康保険
医療保険にも2種類の保険があります。
国民健康保険と健康保険です。
○ 国民健康保険
国民健康保険は市区町村が保険者となって運営しています。
そのため市区町村により保険料が異なります。
個人事業主が加入する医療保険はこの国民健康保険になります。
○ 健康保険
健康保険は、協会けんぽが保険者となって運営しています。都道府県により保険料に若干の違いがありますが、微々たるものです。
サラリーマン、OLといった大・中小企業で働く会社員の方やその扶養配偶者が加入する保険となります。
このように個人事業を開始すれば、基本的に国民健康保険に加入することになります。
健康保険には傷病手当金と出産手当金があるが、国民健康保険にはないなどの若干の違いはありますが、病院にかかった時は3割負担など保障内容についてはほとんど変わりません。
なお、個人事業主の方は、退職した時に任意継続の申請をすれば2年間は健康保険に加入することができますが、会社員時代のように1/2を会社が負担してくれないため、有利になるケースは少ないです。これから起業する方はどちらが有利なのか確認するのも良いでしょう。
また、個人事業主の方は国民健康保険に代えて、国民健康保険組合に加入できる場合もあります。例えば、税理士、美容師、建築関係の方などは該当の国民健康保険組合に加入することができます。
国民健康保険は所得により保険料が変動し、国民健康保険組合は一律の保険料のため、所得が増えた場合、国民健康保険組合の医療保険の方が保険料が安くなります。国民健康保険組合に加入できる職業であり所得が増えれば、加入を検討すべきでしょう。
介護保険
介護保険は個人事業主、会社員共に40歳以上65歳未満の方は加入しなければなりません。
個人事業主の方は、国民健康保険に含まれて計算されます。会社員の方は健康保険に含まれて給与から控除されます。
自動で計算され、金額も少ないため個人事業主の方も会社員の方も意識されていない方も多いかも知れません。
雇用保険
雇用保険は労働者が失業した場合に、失業手当を受け取ることができますが、個人事業主は加入することができません。会社員の方が加入する保険です。
なお、従業員を雇い入れた場合には加入手続きが必要です。手続きについて詳しくは「社長1人で会社設立!社会保険の加入義務とその手続き」をご参照ください。
労災保険
労災保険は労働者が業務や通勤の際の事故、病気、死亡などが起こった場合に補てんしてくれる保険ですが、個人事業主は加入することができません。
ただし、1人でも従業員を雇い入れた場合は加入しなければなりません。手続きについては雇用保険と同様に「社長1人で会社設立!社会保険の加入義務とその手続き」をご参照ください。
このように、5つの公的な保険がありますが、雇用、労災保険は個人事業主1人の場合は関係なく、介護保険は国民健康保険に含まれて同時に支払うため、1人で事業を始める場合の社会保険は、国民年金と国民健康保険のみを意識すれば良いということになります。
国民年金の金額
今回、大阪の個人事業主の社会保険と確定申告という内容ですが、国民年金については全国一律です。
金額は、月に16,490円です。
なお、国民年金は昨今の高齢化をため、毎年数百円ずつ上昇しています。
国民健康保険の金額
国民健康保険は市区町村により金額が異なります。また、国民健康保険は世帯に対してかかりますので注意が必要です。すなわち、配偶者がパート・アルバイトなどで会社の健康保険に入っていない場合は、配偶者の所得も加味して世帯に一括でかかる仕組みです。
今回は、大阪市を例としてご説明します。なお、国民健康保険は健康保険と違い市区町村により、金額が大幅に変動することがありますので、注意が必要です。
国民健康保険料は下記の計算式で算出されます。
● 医療分保険料+支援金分保険料+介護分保険料
さらにそれぞれに平等割、所得割、均等割に分かれます。
具体的にはそれぞれ下記の金額となります。(大阪市の場合)
① 医療分保険料
平等割…32,896円
所得割…算定基礎所得金額×8.18%
均等割り…被保険者数×20,583円
② 支援金分保険料
平等割…11,421円
所得割…算定基礎所得金額×2.83%
均等割り…被保険者数×7,147円
③ 介護分保険料
平等割…10,264円
所得割…算定基礎所得金額×2.82%
均等割り…介護保険被保険者数×8,678円
※算定所得金額は総所得金額等-33万円で計算され、国民健康保険の上限は89万円となります。
非常に難しい計算となりますので、実際に下記の具体例で金額を確認していきます。
国民健康保険料の具体例
50歳 収入500万 所得250万 配偶者 健康保険加入の場合
国民健康保険料も大阪市を例にしています。
① 医療分保険料
32,896+(250万-33万)×8.18%+20,583=230,895
② 支援金分保険料
11,421+(250万-33万)×2.83%+7,147=79,979
③ 介護分保険料
10,264+(250万-33万)×2.82%+8,678=80,136
よって、年額合計391,100円となります。
このように、国民健康保険の算出は非常に複雑なので、おおよその金額だけでもわかれば十分です。
社会保険の確定申告の控除
社会保険の国民年金、国民健康保険、雇用保険などの公的な社会保険料を支払った時は、その支払金額の全額が所得控除の対象となります。
すなわち、支払金額が多ければ多いほど、税金は安くなります。
例えば、所得が500万の方が国民年金、国民健康保険など社会保険を合わせて100万支払ったとすれば、所得税20%、住民税10% 計30%税金から控除できますので、実質負担は70万円になります。
この所得控除を理解している人が少なく、国民年金など滞納しがちですが、実質負担を考えれば、民間の保険会社の保険に比べ、遥かに負担が少ないです。
なお、控除を受けることができるのは支払義務が確定した年ではなく、実際に支払いを行った年に控除されます。
例えば、過年度分の国民年金や国民健康保険を平成29年に支払えば、平成29年分の確定申告で所得控除を受けることになります。
まとめ
今回は、個人事業主の社会保険と確定申告というテーマでした。
個人で1人で事業をされたとしても、最低限、国民年金と国民健康保険は負担しなければならないということを覚えておいて下さい。
国民年金は年間20万、国民健康保険は所得によりますが、大阪市の場合、所得250万の方でも約40万円かかります。
社会保険は支払いの義務がありますので、必ず社会保険の金額を考慮して、資金繰りを組みましょう。